引き寄せる力

今回はお寿司屋さんからの依頼で
店舗の通路と手水鉢の設置をすることになりました。
このお寿司屋さんはとても評判がよくミシュランの星まで付いています。

しかし、驚くべきは、
オーナーさんの若さ。なんと30代前半。
とても若い。
一般的に若い人には手水鉢は似合いませんが、
彼ならなんとか着こなしてくれるはず。

「でも、どんな手水鉢がいいのか?」

もちろん、探せばいい手水は沢山ありますが、
ものによっては途方もなく値段が張りますし、
そんな予算はありません。仮に予算があったとしても、
それを着こなすことはとても難しい。
かといって舌の肥えたお客さんを抱えるこのお店に
冴えない手水鉢を置くわけにはいきません。

「困った、どうしよう」

そんなことを悩んでいた折、

打ち合わせの合間に
「実はね、本当は(お店で)お酒を出したくないんです。」
とここの大将がお話をしてくれました。
おそらく、飲食店として経営をするにあたり、
お酒の売上はとても大事なはずです。
しかし、彼は「できれば寿司だけで勝負したいんです。」と。
夜を中心に営業されているこのお店が繁華街からの移転を決めたのも、
「静かな場所でお寿司を味わってほしいので。」と口数少ない彼が語ってくれました。




この心意気、志の高さにはとても感動しました。
聞けば、彼は魚を知るために、魚の市場で働き、また、漁師として
船にも乗っていたそうです。
彼はこの年齢にして類まれなる魚に対する知識と経験を身につけた  
寿司サイボーグです。
「この業界は鮮度がいい方が魚が美味しい、っていうのが通説
なんですよ。でも、自分は鮮度のいい魚を炙ったり、
寝かしたりするんです。いい魚を無駄にしているって
言われたりもしました。でも、僕は自分のやってることは
正しいと思うんです。だって、美味しいでしょ。」
といって差し出された彼の寿司は最高に美味しかったのを覚えています。



時として業界に根ざす常識が新しいものを生み出すことの
邪魔をします。常識を壊さなければ
新しいものは生まれない。しかし、それは言葉でいうほど
簡単なものではなくて、沢山の迷いや周りからのやじに耐え、
自分の信じることを継続しなければ、
常識を超えた新しい道なんて生まれてこない。
彼は自分の信じる所に向かう強い志を持っているように思いました。
しかし、彼の握る鮨は決して新しいものではなく、
古典に則したものの雰囲気もあります。
それはぶれること無く常に「おいしさ」に向かっているからなのかもしれません。



こんなことを感じながら今回の手水鉢を選んでいたら、
古い白川石の灯籠を手水に作り直したものが目に留まりました。
ものとしては良いのですが、背が低い。
今回は立ち手水のような形のモノが欲しかったのですが、
その時、紅葉を彫った小さな立ち手水が目に留まりました。
「あ、この紅葉の立ち手水に白川の手水鉢を乗せてみよう。」
と思った瞬間、現場とのイメージがぴったりきました。




こんなやり方は石屋さんからすると邪道かもしれませんが、
時代を経た美しさを楽しませつつ
組み合わせによって生み出されるスタイルの新しさは
彼のお寿司とよく似合うと思いました。
個人的にはとてもいい雰囲気が出たと思います。
多分彼のお寿司がこの二つを引き寄せたのでしょうね