美の巨人

 今までたくさんの方々とお仕事をしてまいりました。そして、そのお仕事を通してたくさんのことを学んできましたが、この現場ほどたくさんのことを学んだ現場も珍しいかもしれません。

 

 「仕事は常に早く、常に準備しておかないとダメなんやで」と優しい口調で教えてくれたのはこの現場の施主、 丹波立杭焼きの大家で大雅工房の市野雅彦さんでした。

 常にさらっと助言を下さる市野さんとの出会いは僕にとって本当にありがたいものでした。

 

 「まっちゃんな、いつチャンスが来るかは誰もわからないねん。だから、いつ(チャンスが)来ても自分が100%の力を出せるようにするために常に準備をする必要があるんや。あいつなら、どうにかしてくれる、という存在にならんとあかんで。個展の最中に、急な個展の依頼が来たとしても、こたえれるよう準備しておかないとあかんねや。100%の個展を2個できるくらいな。」その助言は決して、直接的ではないにしろ、とても私のことをよく見透かしているようで心に刺さりました。

 

 現場作業で休憩しているときに作業場を案内してくれたことがありました。土仕事をする作業場であるにもかかわらず、とても、きれいでしかも片付いています。

「まっちゃんな、生きている時間は限られているんや。だから無駄なことはしたらあかんねん。効率の良い仕事をするためにも、仕事場は片付いておかないとあかん。一番無駄な時間は探し物をしている時間や。あの道具はどこや、あの工具やどのにしまいこんだんや?と言って探し物をしている時間が一番無駄なんや。だから、スタッフの誰が見ても、どの工具がどこにあるかがわかるように整理しているんやで。」と倉庫の奥の棚の中まで見せてくださいました。

その整理された倉庫は私には衝撃的でした。この助言を聞いて、すぐに自分の倉庫の整理を始めました。市野さんの倉庫ほどではないですが、おかげで我が倉庫も片付きましたが、片付くと本当に仕事がスムーズに行くし、不思議なもので、なぜか倉庫に人が来るようになりました。いわゆる運気があっぷしたのかもしれませんね。

 

 ある時は、

「まっちゃんな、面白い作品ってどういうものかわかる?

面白い作品は野球でいうところの、ストライクとボールの境目の球なんや。直球ど真ん中のストライクは素晴らしいが、決して面白いわけではない。かといって、明らかにボールになるくらい外してもいけない。このぎりぎりのところを狙ってモノをつくるんや。そのためにはな、まず、ど真ん中のストライクから徐々にゾーンぎりぎりを狙ってゆくんや。でもな、時間がないと、つい真ん中のストライクを狙ったものばっかり作ってしまうんや。時間をかけることで、このぎりぎりを狙えるんだけど、自分ひとりで仕事をしているとこのぎりぎりを狙うための時間が確保できへんねん。だから、自分は弟子を雇って自分の時間をとれるように努力しているんや。

仕事がたくさんあって余裕があるから弟子を雇っているのとはちゃうで。人がいることで、自分の製作時間も生まれるし、1人ではできない大きな作品を製作することもできるんや。そこで、ぎりぎりを狙えるんや。つまりぎりぎりを狙えることは心に余裕がるからなんや。時間がない状況でぎりぎりなんて狙えへんで。だから、大変でも人を雇わないとな。」

 

 市野さんは本当に目が高く、すぐこちらの意図を理解してくれる。

ある時

「まっちゃん、あの釘、ええ感じやな。まっちゃんが打った釘、あれ、田舎の納屋でもあんな風になってるなぁ」

と僕が打った打ち損じて曲がった釘を見て、唸っている。

 僕は正直驚きました。僕はよくわざとさびた釘を途中で打ち損じたように打つのです。いや、正確に言うと、錆びた古い釘を使うと釘はとても打つことが難しい。打つのが難しくなるため、たまに打ち損じが生じるのです。これが僕は好きなので、いくらきれいに打とうとも、難しくて、つい失敗することで、そこには僕の意図は介在しなくなります。いやむしろ、意図的に意図を取り除くために生み出すための行為なんですが、なんだか、よくわからないようになってきたが、意図的に釘を曲げると、それはあざとく見えるし、かと言って、きれいに釘を打っても面白くないので、この方法をとることが多いのです。

ただ、打ち損じた釘を見るとほとんどの人は、

「あ、失敗してる!」と指摘されるのですが、市野さんはこちらの意図を十分に理解したうえで、そして、曲がった釘を見てほめてくれました。

「この釘、ええ感じわや。」と。

 「ワイ(自分のこと)もわざと(轆轤を)引きにくい土を使ってぐい吞みをつくるんや。わざと小石や土の塊が混じってるような土を作って、それを轆轤でひくんやけど、そうすると、きれいに(轆轤が)引けないし、土がサクイから(轆轤を)引いた先から器が割れてくるんや。同業者が見たら下手糞な轆轤やな、と笑われるかもしれんけど、その使いにくい土でしかできないモノがあってそれがいい味をうむんや。逆に、むしろ使いやすい土を使うと、自分の意図が器にはいりすぎるんや。なにせ、使いやすいから、自分の思うままの形ができるからな。そうすると、中途半端に形が綺麗すぎたり、人工的なものができあがってしまう。そんなものは誰が見ても感動せいへんわな。」

 

 市野さんは美しいものとはどういうものなのか、を常にわかりやすい言葉と作品で説明してくださります。

 

ある打ち合わせの時は、

「あんまり洗練されすぎたらあかんで。ワイ(自分のことを)は立杭の田舎者やから。そんなものは似合わない。」と言っていくらきれいな提案でも悩むことなくサクッとNoを言える人。市野さんの回答にはいつも決してぶれない軸を感じます。そこには自分とは何者で自分は何を作るべきか?という問に向き合い続けた姿勢を垣間見た気がしました。

 

 今回のお仕事は設計士の東山さんを通じて参加することになりました。ギャラリーとゲストルームのリノベーションです。

 市野さんにはもともと和紙を貼りたいという考えがあったので、私の知人で私の家の和紙を張ってくれている黒谷和紙の畑野渡さんにお願いしました。鉄関係はチプラスタジオのササタニさんです。市野さんの美意識に答えるためには、今回のメンバーは最適だったと思います。

市野さんと皆でアイデアを出し合い、とても良い空間がうまれました。

 

また、続きを書きます。